2014年12月07日
剥がれた爪
以前も書いたことがあるが、我が家の商売は自動車部品の販売である。
自動車部品と言っても、我が家で扱っているのはダンプやトラックと言った中大型自動車と、トラクターや耕耘機と言った農業用車両とタイ農業用車両であるロット•イテーンの部品などが主な商品になる。
元々日本に居た頃に、このノンブアラウェー市に投資目的で土地を買って商業用の建て売り住宅を建設した夫の従兄弟が、その建物を売りたいが為に、日本で働いていた夫に白羽の矢が当たったのだ。
そして、その従兄弟と言うのが元々隣の市でトラクター部品の専門店をしていた事から、「隣の市でそれと同じ事業をやらないか?」と言う誘いでこの地に引き込まれ、日本から移住してここで商売を始めることになったのだった。
ところが、従兄弟の老舗のトラクター専門店とは違い、まだ店を始めた当初の我が家はそれだけではとてもやって行ける状況ではなかった。
我が家のある市は、その従兄弟の店がある市より更に田舎で規模も小さい場所だったからだ。
そのため、当時日本で稼いで義母に送金し続けた挙げ句にようやく貯めた100万バーツと言うわずかばかりの所持金では、新生活品の調達、車の購入、そしてこれから始める商売の仕入れ代ですっかり終わってしまい、農業の季節によって売り上げが大幅に左右されるトラクター部品だけではやって行けないと夫は判断した。
それでその他の自動車部品も販売し始めて、今は私が苦手なトラクター部品よりも、日本車の多い大型自動車部品の割合が多くなっている。
当初はタイでは最も需要が多い、ピックアップトラックや普通の乗用車の部品も扱っていたのだが、我々よりも4年ほど後に同じく出稼ぎしていた日本から戻って来た義姉夫婦が、隣で修理工場兼部品販売をする事になり、その乗用車部品だけを持って行ってしまったので、我が家はトラクターや大型部品を中心とした重量のある部品が主となってしまった。
さて、いつもの事ながらすっかり前置きが長くなってしまったが、そう言う事で酸素ボンベやトラクターの部品など、我が家の商品はとにかく重い、危険な物が多い。
前に、お客で足の指の部分に包帯を巻いて来た若者がいたので、どうしたのか聞いたら「ブルドーザーの前部に付いている鉄板部分が足に落ちた」と言う事だった。
それを聞いた時は他人事ながら鳥肌が立ったものだった。
ところが、ほんの数ヶ月前のある日、いつものように夫が闘鶏場に出掛けて留守にしていた土曜日にそれは起こった。
我が家にはそのブルドーザーの鉄板部の端に取り付ける「鉄の刃」と呼ばれる商品があるのだが、それを売っていて、普段は一人で運ぶのだが、その日はたまたま居合わせた長女が手伝って、二人で運ぼうとした為にバランスを崩してタイミングを外し、手を滑らせて私の右手の小指の爪に落としてしまった。
落としたと言っても、先ほど足の爪に落とした若者のように、完全に潰れるほどまともには乗った訳ではなく、その鉄板と下の鉄板の間に挟まれた感じになったので、最初はちょっと挟んだくらいの感覚しかなかった。
しかし、気を取り直して長女を制し私一人で運ぼうとしたところ、その挟んだ小指から血が滴ったので、「挟んだだけなのに…?」と思ったが、とりあえずティッシュで押さえて運び、仕事が終わって見てみると、小指の爪がすっかり内出血していた。
さて、最初は痺れていただけの指先だったが、時間が経つと徐々に痛みが始まった。
とりあえず、血が集まると余計に痛いのではないかと思い、仕事机に腕を置いて心臓より指先の位置を高くするようにしてみる。
…が、痛い。
そのうちじっとしているのが辛いほど、痛みが上って来た。
何年か前に、子供たちと同じ小学校だった子供が、中国正月の季節に爆竹で遊んでいて、手の指が2本吹っ飛んだと言う話を聞いたが、私の爪が挟まれた程度でこんなに痛いのなら、その子供はどれくらい痛かったのだろう?などと、余計な想像しながら痛みに耐える事数時間。
夕方頃になると、痛みに慣れて来たのか、だいぶ耐えられる程度の痛みに治まって来た。
しかし、内出血のせいで爪は真っ黒と言うかどす黒い赤になり、まるで普段全く縁のないマニキュアでも塗っているかのようになった。
そして、休めばいいのに日課のウォーキングマシンで40分歩いているうちに、腕を振ると小指の先に余計に血が溜まる事に気が付き、それから数日は左手だけ振ってウォーキングと言う奇妙な格好で歩いていた。
そんな事があってから、約一ヶ月。
小指だけマニキュア生活にも慣れた頃、その爪の上半分近くが、何となく剥離しているような隙間が開いたようになって来た。
そして、それからまた数日後。
いつもの様に、PCで動画を見ていたところ…。
何気なく、パカパカしている小指の先を触ってみたら…剥げた。
そして特に痛みもなく、まるで抜けかけた乳歯みたいなむず痒い感覚に襲われたので、もう少しいじってみたら、ついに完全剥離。
さて、それから数ヶ月後…。
乾いた生爪状態から変な甘皮のような半人前の爪が生えて来て、それがどうも一人前にならずにいたら、さらに二段にまた新しい爪が生えて来たので経過を見守っていたところ…。
数日前にようやく半人前の爪の上段部分が無くなり、まともな爪に完全に生え変わった。
剥げてしまった爪が再生すると言うのは、私より色々な人生経験の多い長男が、幼稚園時代にした「足の親指の爪をドアで挟んで剥げた」と言う体験談を聞いていたのだが、最初は「これが元通りに戻るのか?」と半信半疑だった。
しかし長男の言う通り、どす黒い血の色の爪から、すっかり元通りの桜貝色の爪に戻った。
その事実に妙に納得するとともに、これとほぼ同じ苦痛をわずか5歳のときに体験してしまった長男を心底可哀想に思ったのだった。
追伸、いつもの事ながら、前置きが長くなり申し訳ありません。
自動車部品と言っても、我が家で扱っているのはダンプやトラックと言った中大型自動車と、トラクターや耕耘機と言った農業用車両とタイ農業用車両であるロット•イテーンの部品などが主な商品になる。
元々日本に居た頃に、このノンブアラウェー市に投資目的で土地を買って商業用の建て売り住宅を建設した夫の従兄弟が、その建物を売りたいが為に、日本で働いていた夫に白羽の矢が当たったのだ。
そして、その従兄弟と言うのが元々隣の市でトラクター部品の専門店をしていた事から、「隣の市でそれと同じ事業をやらないか?」と言う誘いでこの地に引き込まれ、日本から移住してここで商売を始めることになったのだった。
ところが、従兄弟の老舗のトラクター専門店とは違い、まだ店を始めた当初の我が家はそれだけではとてもやって行ける状況ではなかった。
我が家のある市は、その従兄弟の店がある市より更に田舎で規模も小さい場所だったからだ。
そのため、当時日本で稼いで義母に送金し続けた挙げ句にようやく貯めた100万バーツと言うわずかばかりの所持金では、新生活品の調達、車の購入、そしてこれから始める商売の仕入れ代ですっかり終わってしまい、農業の季節によって売り上げが大幅に左右されるトラクター部品だけではやって行けないと夫は判断した。
それでその他の自動車部品も販売し始めて、今は私が苦手なトラクター部品よりも、日本車の多い大型自動車部品の割合が多くなっている。
当初はタイでは最も需要が多い、ピックアップトラックや普通の乗用車の部品も扱っていたのだが、我々よりも4年ほど後に同じく出稼ぎしていた日本から戻って来た義姉夫婦が、隣で修理工場兼部品販売をする事になり、その乗用車部品だけを持って行ってしまったので、我が家はトラクターや大型部品を中心とした重量のある部品が主となってしまった。
さて、いつもの事ながらすっかり前置きが長くなってしまったが、そう言う事で酸素ボンベやトラクターの部品など、我が家の商品はとにかく重い、危険な物が多い。
前に、お客で足の指の部分に包帯を巻いて来た若者がいたので、どうしたのか聞いたら「ブルドーザーの前部に付いている鉄板部分が足に落ちた」と言う事だった。
それを聞いた時は他人事ながら鳥肌が立ったものだった。
ところが、ほんの数ヶ月前のある日、いつものように夫が闘鶏場に出掛けて留守にしていた土曜日にそれは起こった。
我が家にはそのブルドーザーの鉄板部の端に取り付ける「鉄の刃」と呼ばれる商品があるのだが、それを売っていて、普段は一人で運ぶのだが、その日はたまたま居合わせた長女が手伝って、二人で運ぼうとした為にバランスを崩してタイミングを外し、手を滑らせて私の右手の小指の爪に落としてしまった。
落としたと言っても、先ほど足の爪に落とした若者のように、完全に潰れるほどまともには乗った訳ではなく、その鉄板と下の鉄板の間に挟まれた感じになったので、最初はちょっと挟んだくらいの感覚しかなかった。
しかし、気を取り直して長女を制し私一人で運ぼうとしたところ、その挟んだ小指から血が滴ったので、「挟んだだけなのに…?」と思ったが、とりあえずティッシュで押さえて運び、仕事が終わって見てみると、小指の爪がすっかり内出血していた。
さて、最初は痺れていただけの指先だったが、時間が経つと徐々に痛みが始まった。
とりあえず、血が集まると余計に痛いのではないかと思い、仕事机に腕を置いて心臓より指先の位置を高くするようにしてみる。
…が、痛い。
そのうちじっとしているのが辛いほど、痛みが上って来た。
何年か前に、子供たちと同じ小学校だった子供が、中国正月の季節に爆竹で遊んでいて、手の指が2本吹っ飛んだと言う話を聞いたが、私の爪が挟まれた程度でこんなに痛いのなら、その子供はどれくらい痛かったのだろう?などと、余計な想像しながら痛みに耐える事数時間。
夕方頃になると、痛みに慣れて来たのか、だいぶ耐えられる程度の痛みに治まって来た。
しかし、内出血のせいで爪は真っ黒と言うかどす黒い赤になり、まるで普段全く縁のないマニキュアでも塗っているかのようになった。
そして、休めばいいのに日課のウォーキングマシンで40分歩いているうちに、腕を振ると小指の先に余計に血が溜まる事に気が付き、それから数日は左手だけ振ってウォーキングと言う奇妙な格好で歩いていた。
そんな事があってから、約一ヶ月。
小指だけマニキュア生活にも慣れた頃、その爪の上半分近くが、何となく剥離しているような隙間が開いたようになって来た。
そして、それからまた数日後。
いつもの様に、PCで動画を見ていたところ…。
何気なく、パカパカしている小指の先を触ってみたら…剥げた。
そして特に痛みもなく、まるで抜けかけた乳歯みたいなむず痒い感覚に襲われたので、もう少しいじってみたら、ついに完全剥離。
さて、それから数ヶ月後…。
乾いた生爪状態から変な甘皮のような半人前の爪が生えて来て、それがどうも一人前にならずにいたら、さらに二段にまた新しい爪が生えて来たので経過を見守っていたところ…。
数日前にようやく半人前の爪の上段部分が無くなり、まともな爪に完全に生え変わった。
剥げてしまった爪が再生すると言うのは、私より色々な人生経験の多い長男が、幼稚園時代にした「足の親指の爪をドアで挟んで剥げた」と言う体験談を聞いていたのだが、最初は「これが元通りに戻るのか?」と半信半疑だった。
しかし長男の言う通り、どす黒い血の色の爪から、すっかり元通りの桜貝色の爪に戻った。
その事実に妙に納得するとともに、これとほぼ同じ苦痛をわずか5歳のときに体験してしまった長男を心底可哀想に思ったのだった。
追伸、いつもの事ながら、前置きが長くなり申し訳ありません。